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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(オ)304号 判決

上告人

大新商事株式会社

右代表者

福原龍男

右訴訟代理人

田中繁男

被上告人

三大物産株式会社

右代表者

木戸真一

右訴訟代理人

石塚久

主文

本件上告を棄却する

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田中繁男の上告理由について

民法三六四条一項、四六七条の規定する指名債権に対する質権設定について第三債務者に対する通知又はその承諾は、第三債務者以外の第三者に対する関係でも対抗要件をなすものであるところ、この対抗要件制度は、第三債務者が質権設定の事実を認識し、かつ、これが右第三債務者によつて第三者に表示されうることを根幹として成立しているものであり(最高裁昭和四七年(オ)第五九六号同四九年三月七日第一小法廷判決・民集二八巻二号一七四頁参照)、第三債務者が当該質権の目的債権を取引の対象としようとする第三者から右債権の帰属関係等の事情を問われたときには、質権設定の有無及び質権者が誰であるかを告知、公示することができ、また、そうすることを前提とし、これにより第三者に適宜な措置を講じさせ、その者が不当に不利益を被るのを防止しようとするものであるから、第三者に対する関係での対抗要件となりうる第三債務者に対する通知又はその承諾は、具体的に特定された者に対する質権設定についての通知又は承諾であることを要するものと解すべきである。

本件において原審が適法に確定した事実関係によれば、第三債務者である両角善吉の質権設定についての確定日付のある承諾書には、単に抽象的に、債権者である若原行平が同人の債務の担保として本件敷金返還請求権を他に差し入れることを承諾する旨の記載があるにすぎず、両角善吉において若原行平が上告人のために本件敷金返還請求権に対し質権を設定することを承諾する趣旨で右承諾書を作成したものとは認められないというのであるから、右承諾書による承諾は、上告人が本件敷金返還請求権に対し質権の設定を受けたことをもつて被上告人に対抗するための対抗要件としての承諾にはあたらないというべきである。これと同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(谷口正孝 藤﨑萬里 中村治朗 和田誠一)

上告代理人田中繁男の上告理由

原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる民法第三六四条の違反がある。

一、原判決は、「指名債権質の対抗要件としての通知は質権の目的である債権の債権者がその債務者(以下、第三債務者という)に対し、債権に質権を設定した事実を通知することであり、又承諾は、第三債務者がその債権に質権が設定された事実の認識を表明することであるから右通知、承諾は、具体的な質権設定に関して、質権設定と同時に又はその後になされたものでなければならないと解するのが相当である……第三債務者以外の第三者に対する対抗要件は、特定の質権者と他の質権者や質権の目的である債権の譲受人等の第三者との間の法律的地位の優劣を決するための基準となるものであるから、少なくとも第三者に対する関係においては右のような承諾(第三債務者が事前に、しかも質権者を特定しないでした承諾)は、対抗要件としての効力がないものというべきである」と判断した。

二、本件右承諾には担保の形態についての記載がなく、叉担保差し入れ先について何人であるかの特定を欠いているが担保として差し入れることを承諾した以上、質権の設定についても両角において承諾したものと認めるのが相当である。

民法三六四条が質権設定について対抗要件として第三債務者の承諾を必要とした趣旨は第三債務者の保護を目的とするものであるから、第三債務者が担保差し入先を特定せずに承諾した以上、右の承諾も有効なものと解すべきである。

そして右承諾につき、昭和五一年九月一〇日第三債務者である両角の確定日付のある承諾書を得ているのであるから右両角以外の第三債務者に対する対抗要件として十分なものであり、有効であると解するのが相当である。

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